国際文化学科

2025.02.19

「多文化共生社会における言語教育と言語研究」国際文化学部シンポジウム

2月4日(火)、山口県立大学国際文化学部にて「多文化共生社会における言語教育と言語研究」をテーマとしたシンポジウムが開催されました。

シンポジウムは、外部講師として琉球大学の名嶋義直先生、放送大学の滝浦真人先生をお招きし、「日本語教育実践演習」最終報告会と言語教育と言語研究に関する公開講座の二部構成で行いました。

「日本語教育実践演習」の最終報告会

午前の部では、後期開講科目「日本語教育実践演習」の授業内で作成した教材を、ポスター発表形式で披露しました。この報告会には、平川小学校の辻本紳一朗先生、周南公立大学の立部文崇先生、そして青年海外協力隊山口県OB会から松原加代先生も参加され、学生たちの教材をご覧いただきました。教材は紙媒体とデジタル媒体の両方で作成され、実際に教材に触れてもらいながら、学生たちがその特徴や工夫点について説明を行いました。

「日本語教育実践演習」最終報告会の様子1
「日本語教育実践演習」最終報告会の様子2
「日本語教育実践演習」最終報告会の様子3

先生方からの総評では、グループそれぞれに独自性があり、グループ間には相補性が見られたことが述べられました。また、教材が外国人児童生徒向けに作られた前提を踏まえ、教材作成時には一度「子どもの脳」で学習者になり、教材と向き合う必要性についても言及されました。

『日本語教育の参照枠報告』の批判的談話研究―誰のための、何のための参照」

午後の部では、第1章として名嶋義直先生と滝浦先生にご講演いただきました。

名嶋先生は「『日本語教育の参照枠報告』の批判的談話研究―誰のための、何のための参照」というテーマで講演されました。日本語教育の参照枠とは、日本語学習者を社会的存在として捉えること、言語を使って「できること」に注目すること、多様な日本語使用を尊重することを柱として考えられた、日本語教育の包括的な枠組みを示すものです。

言語研究に関する公開講座の様子1

日本語教育の参照枠を批判的に読み進め、参照枠の中に隠された権力による支配や管理の目的があることを考察されました。

「敬語とやりもらいから見る"母語話者"と"学習者"」

滝浦真人先生は現代日本語に多用される「やりもらい表現」の違和感について言及し、実際に使用されている用法と日本語教育の現場で紹介される用法のズレを指摘しました。「やりもらい表現」とは日本語の敬語や謙譲語の一つで、誰かに対して「〜してもらう」「〜してあげる」という形で、自分の行動や相手の行動に対して感謝や敬意を表現する方法です。

言語研究に関する公開講座の様子2

やりもらい表現が日本語の教科書ではほとんど三人称を立てていることについて原因や課題等を考察されました。

パネルディスカッション 「日本語と日本社会の一致と不仲」

午後の部の第2章では外部講師の名嶋先生、滝浦先生、国際文化学部長の西田先生、そして本学の卒業生で現在大阪大学人文学研究科に所属する稲葉皐氏がスピーカーとなり、日常に潜む依頼表現や禁止表現の工夫、また丁寧な表現の変遷について対談が繰り広げられました。

パネルディスカッション「日本語と日本社会の一致と不仲」の様子1
パネルディスカッション「日本語と日本社会の一致と不仲」の様子2

普段気に留めていなかった街中の日本語が、実は戦略的な意図を持っていたり、吟味すると不思議な日本語であることに気づくことができ、話を聴いている方々も非常に興味深い様子でした。対談後は、学生たちやご参加いただいた本学非常勤講師の吹屋葉子先生からも質問が寄せられ、さらに学びを深めることができました。

パネルディスカッション「日本語と日本社会の一致と不仲」の様子3
パネルディスカッション「日本語と日本社会の一致と不仲」の様子4

韓国学生と国際文化学科の学生が山口市でフィールドワークを行いました

本学では、この度1月15日から16日にかけて、社団法人韓国創業教育協議会が主催する、起業をテーマとした日本へのスタディーツアーに協力しました。

韓国16大学から100名を超える大学生と大学職員が来県し、山口県における起業家支援や地場産業についてのシンポジウムを開催するとともに、本学 国際文化学科の学生とフィールドワークを通じて交流を行いました。

記念撮影
フィールドワークの様子1

フィールドワークでは、複数のグループに分かれて「道場門前・米屋町商店街エリア」「大殿地区エリア」「県庁付近エリア」「美術館エリア」をそれぞれ探索しました。

「道場門前・米屋町商店街エリア」の学生らは、山口の魅力を感じられる体験ができる場所である「コトサイト」や、まちの未来を想像したものづくり活動ができる学びのものづくりスペース「VIVISTOP mini in YAMAGUCHI」などを訪れました。

フィールドワークの様子2
フィールドワークの様子3

学生同士、探り探りで始まったフィールドワークでしたが、自然に打ち解け合い、「韓国にもこんな施設はあるか」「どんな場所に行きたいか」など質問し合いながら、充実した交流ができました。

フィールドワークの様子4
フィールドワークの様子5

「山口から世界へGoGoプログラム」に参加しました

令和6年9月14日(土)にKDDI維新ホールで山口県教育委員会が主催する「山口から世界へGoGoプログラム」が開催されました。山口県内の中高生の留学に対する意識を高めることを目的として開催され、山口県内の百数十名の中高生が参加しました。

このイベントに国際文化学科の学生が参加し、4名の学生が自分の留学経験について英語でプレゼンテーションを行いました。

「山口から世界へGoGoプログラム」の様子1

プレゼンテーション後は中高生からの質問に丁寧に対応していました。

「山口から世界へGoGoプログラム」の様子2
「山口から世界へGoGoプログラム」の様子3
「山口から世界へGoGoプログラム」の様子4
「山口から世界へGoGoプログラム」の様子5

2024.05.09

陳澄波スケッチ柄皿・椀の贈呈

このたび、台湾・嘉義(かぎ、Chia-yi)市の「陳澄波文化基金会」より、陳澄波(ちん・とうは、Chen Cheng-Po、1895-1947)のスケッチをデザインした皿と椀のセットが贈られてきました。これには、本学のみならず山口県と台湾を結ぶ縁があります。

陳澄波のスケッチをデザインした皿と椀のセット

陳澄波は近現代台湾を代表する画家のひとりとして著名です。その出身地が嘉義です(嘉義は画家がたくさん出ているそうです)。最近は、山口県出身の栖來ひかり氏が翻訳された小説『陳澄波を探して』(柯宗明作、岩波書店)でも知られています。この画家に風景画を依頼したのが、防府出身の元台湾総督、上山満之進(かみやま・みつのしん、1869-1938)でした。

皿と椀のセットの写真2

依頼によって1930年に陳澄波が描いた作品が『東台湾臨海道路』です(残念ながらこの絵に描かれた地域は、2024年4月3日の台湾地震で大きく崩落しました)。この絵は上山から防府市立三哲文庫(市立図書館)設立にあたり蔵書などとともに図書館に寄贈されました。そして、閲覧室などで市民に見守られていました。図書館が何度かの移転をした際、絵は倉庫に保管されました。この間に、作者陳澄波を政治の魔手が襲いました。故郷の参議会議員となった陳澄波は、1947年に台湾で発生した2・28事件の際、事態収拾に乗り出して逮捕され、裁判抜きで公開銃殺に処せられたのでした。1987年に民主化が始まるまで、陳澄波は台湾では「知ってはいけない名前」だったのです。

2015年、僧侶・歴史家児玉識(こだま・しき、1933-2019)先生が防府市の依頼で上山満之進の伝記執筆の際に図書館倉庫よりこの絵を発見し、歴史が再び動きました。本学の安渓遊地教授(現名誉教授)を通じて、陳澄波文化基金会に連絡が行き、これが台湾では世紀の大発見として報じられたことから、安渓教授率いる台湾地域実習に嘉義行きが加わるようになり、その過程で出会った国立中正大學とのMOU締結(2019年)など、とにかく驚くようなことが次から次へと起こったのでした。

今回贈られた陶磁器には、陳澄波の遺したスケッチの一つがデザインされています。

皿と椀のセットの写真3

原作を収めた『陳澄波全集』(全18巻)も、既に陳澄波文化基金会から本学図書館に全巻寄贈されています。一枚のお皿にも、心を揺さぶる物語があります。

皿と椀のセットと井竿富雄教授

2023.12.21

「言語政策から見た日本語教育の現状と課題」国際文化学部 日本語教育関連外部講師による講義 No. 9

12月13日(水)、山口県立大学にて「国際文化学部 日本語教育関連外部講師による講義 No. 9」が行われました。

講師の嶋田和子氏(アクラス日本語教育研究所代表理事)は、40年間にわたり日本語学校、大学、地域日本語教育など、日本語教育の様々な現場に関わってこられました。

2019年の「日本語教育の推進に関する法律」制定を皮切りに大きな変化の中にある日本語教育がどのようなプロセスを経て今日に至ったのか。そして今後どのように取り組んでいくべきかということを、国際文化学部2年生の学生たちにお話しいただきました。

講師 嶋田和子先生(アクラス日本語教育研究所代表理事/元公益社団法人日本語教育学会副会長)
講師 嶋田和子氏(アクラス日本語教育研究所代表理事/元公益社団法人日本語教育学会副会長)

日本語教育の揺籃期からこれまで

日本における留学生がまだ少なかった1983年、政府は「留学生10万人計画」を打ち出しました。日本語を母語としない人を対象に、日本語を教える機関である日本語学校が増えはじめ、日本語能力試験や日本語教育能力検定試験など、日本語教育が推進されていきます。

日本語学校は激動の中で成長を目指し、「留学生10万人計画」の達成にも大きく貢献しましたが、2010年の「事業仕分け」にその道を阻まれることとなりました。

ですが2011年以降も、日本語学校の数は増えています。

「みなさんに、社会にはたらきかけることの大切さを伝えたいんです。」

講師 嶋田和子先生

長い時間をかけて仲間と一緒に国やさまざまな機関に働きかけてきた嶋田先生はそう繰り返していました。

法制化へのプロセスと現状

日本語教育に関しては、ボランティアによる教室が多く体系的な教育環境が整備できていない、専門性を有するコーディネーターや日本語教師が不足している、また地方公共団体と日本語教育関係機関の連携が不十分である等の課題がありました。

言語政策を国として行っていきたい。日本語学校の社会的位置づけを、日本語教育の質を向上させたい。そのために嶋田先生らは、努力を重ねてきました。

その結果、2019年に「日本語教育の推進に関する法律」が制定され、まさに「日本語教育元年」を迎えました。

嶋田和子先生と国際文化学部2年の学生たち

嶋田先生の、そして日本語教育の歩んできた道筋に、学生たちは真剣に耳を傾けていました。

日本語能力のレベルについて考えてみる

2021年、「日本語教育の参照枠」が発表されました。

これは日本語学習者を社会的存在として捉えること、言語を使って「できること」に注目すること、多様な日本語使用を尊重することを柱として考えられた、日本語教育の包括的な枠組みを示すものです。

今回は、参照枠の示す熟達度を理解するために、次のような表をもとに日本語能力のレベルを周りの人と一緒に考えてみました。

「活動Can do」の横にレベルと順番を記入する欄が設けられた表
※講義にて配布されたワークシートをもとに筆者作成
嶋田和子先生と国際文化学部2年の学生たち
話し合う国際文化学部2年の学生たち

それぞれのライフスタイルにおいてどこまでのレベルが必要とされるのか、その習得を促すために何ができるか。学生たちはそれぞれ考えを深めました。

「ともに社会を担う仲間」として

講義の最後に、日本語教育の取組みについて様々な事例を紹介していただきました。

その中で嶋田先生が重要だとおっしゃっていたのは、「支援」ではなく「市民としての社会参画促進」としての日本語教育の在り方です。

「ともに社会を担う仲間」として、学び合う。

学ぶ力は本人の中にある。学習者主体の日本語教育を。

それが社会にとっても貴重な「人財づくり」になるのだそうです。

ラップ動画「やさしい せかい」を観る学生たち

嶋田先生も制作に関わったラップ動画「やさしい せかい」を観ながら、学生たちは今日の学びをさらに深く心に刻んでいました。

「思う」だけでなく、仲間とともに活動して欲しい。

今日までの日本語教育の歩みと嶋田先生の活動をお話しいただき、国際文化学部の学生たちにとってとても貴重な学びとなったことと思います。

嶋田先生らの社会への働きかけで新しい法ができ、社会が変わりはじめ、今があります。

長い時間をかけ、対話を重ねてきたからこそ実現したことがたくさんあります。

日本語教育の未来のために、仲間とともに活動して欲しい。

嶋田先生のメッセージを受け取った学生たちが今後どのような未来を実現していくのか、とても楽しみになる90分間でした。

国際文化学部2年生の学生たちにメッセージを伝える嶋田先生