入学式


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このたび、学部生・大学院生・別科生合わせて356人が、本学に入学しました。

学長式辞

2021年4月2日
山口県立大学学長
加登田 惠子

式辞

 本日、山口県立大学 及び大学院、別科助産専攻に入学された356名の皆さん、ご入学、誠におめでとうございます。全教職員とともに、皆さんの入学を心よりお祝い申し上げます。
 今年はコロナ禍の影響で、来賓の山口県知事さま、山口県議会議長さまには、ビデオレターでご祝辞を頂くなど、感染拡大防止に配慮した変則的な形で入学式を挙行することになりました。残念ながら、入学式の会場にご列席いただく事は叶いませんでしたが、これまで慈しみ育ててこられたご家族の皆様も、さぞお喜びのことと、お祝い申しあげます。
 さて、21世紀も早1/5が過ぎました。新1年生の大多数は2003年度生まれですから、大学生のおおよそ3/4は「21世紀生まれ」となりました。 これから21世紀生まれの人々が生き抜く時代とは、どういう時代でしょうか。現代は、テクノロジーの進化によって、あらゆるものを取り巻く環境が複雑さを増し、将来の予測が困難な状況にあることから、「VUCA(ブーカ)時代」と呼ばれています。

 ・Vは(Volatility ボラティリティ:変動性)
 ・Uは(Uncertainty アンサータンティ:不確実性)
 ・CはComplexity コンプレキシティ:複雑性)
 ・Aは(Ambiguityアンビグイティ:曖昧性) これらを繋いだ言葉です。

 VUCAとは、一言で言うと「先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態」を意味します。元々は1990年代後半に軍事用語として発生した言葉だそうですが、2010年代に入ると 昨今の変化が激しく 先行き不透明な社会情勢を指して、ビジネス界においても急速に使われるようになったようです。
 「将来の予測が困難な状態」と言われると、みなさんは、とても不安になるかもしれません。さらに、コロナのワクチン接種がやっと始まりましたが、世界的なパンデミックの収束への道が未だ見通せない、という厳しい現実と重なると、何だかお先真っ暗ではないか、と入学早々頭を抱えるかもしれません。
 しかし、「先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態」は、イクオール暗い洞窟に落ち込むことではありません。 新しい時代を生き抜くために、特にこれからの若い人々が、大学時代に考え、身につけて戴きたいことを、二つお伝えしたいと思います。
 一つめは、アラン・ケイの言葉で、「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ「The best way to predict the future is to invent it」ということです。
 アラン・ケイは、MIT(米マサチューセッツ工科大学)で子供たちの教育に資するための言語環境を研究し、のちにスティーブ・ジョブズの目に留まりMacintosh誕生のきっかけとなった開発を先導した方です。「パソコンの父」と言われます。
 ケイは、1972年に「すべての年齢の『子供たち』のためのパーソナル・コンピューター」という論文で、人々の知的活動を支援する「Dynabook」構想を説きました。彼は、1960年代に大型コンピューターがめざましく発達し、複雑な科学計算や事務処理が瞬時にできるようになり、その技術を駆使して月にロケットを送ったとき、ちょっと待て、そんな高度な知識や技術は、恵まれた環境の、ごく一握りの専門家にしか扱えないではないか、と疑問を持ちました。
 人類にとって未来を開くI T技術は、たとえ立派で大がかりなコンピューター設備がなくても、英語がわからない国や開発途上国の子供であっても使えるようになるべきだ。たとえば、マウスを使って遊びながらプログラミングを学ぶことはもちろん、ノートくらいの大きさのパソコンで面白がって遊ぶうちに知的活動を高める教育ができるようになるべきだ。彼は、そのような未来社会を構想したのです。それが、今、21世紀に実現しつつあることはご存知の通りです。
 アラン・ケイが語った「未来を予測する最善の方法は、それを発明することだ」という言葉は、色々な解釈ができますが、「未来のあり方は、誰かが作った正解がどこかにある、というのではなく、まず、「自分はどういう未来にしたいのか」ということをよく考え、「それに向けて自分たちで作っていくことだ」と教えてくれているのではないでしょうか。とくに、今後、未来人に必要な力は、「課題解決力」以前に、「課題発見力」であるとも言われます。「課題発見力」を磨くことは、自分の将来や生き方を考えることにつながり、大学生にとって、とても重要なことであると思います。
 二つめは、大学の学びで「科学的思考法」をしっかり身につけて欲しいということです。少し具体的に言うと、特に近年の情報化社会においては、データサイエンスに関する知識と技能を身につけるということである、とも言い換えられます。もう一人の先達の例をあげましょう。
 看護学科の方だけでなく、ナイチンゲールという方を知らない人はいないでしょう。1853年に勃発したロシアとオスマントルコの間のクリミア戦争にイギリスが巻き込まれた時に、自ら看護を志願して現地に駆けつけました。
 戦地の病院では、不眠不休で看護活動を行い、最初の冬だけで2000人の臨終に立ち会ったと言われます。深夜、ランプを抱えて院内を一人巡回する姿は「ランプ・オブ・レディ」(ランプの貴婦人)と呼ばれ、マスコミでは広く「白衣の天使」として宣伝され、戦前日本の看護師イメージにも影響を与えていました。
 しかし、本当の彼女の業績は、前線で負傷した兵士が、不衛生極まりない病院に担ぎ込まれ、医療物資も生活物資もない。そこで感染症に罹患することによって本来は助かったはずの命が失われていく。戦闘によって亡くなるのではなく、劣悪な環境での感染症によって亡くなっているという「事実を発見」したこと。
 さらに、帰国後は、政府に戦地の衛生状況を改善して欲しいという猛烈な働きかけをして、初期の科学的看護論を打ち立てたことです。そういった活躍のベースにあったのが、彼女が若い時に学んだ数学・統計学でした。 ナイチンゲールは、まず最初に、戦死者を感染症・負傷、その他に3分類してそれぞれの数を月別に集計しました。その結果、例えば1855年1月の場合、負傷を原因とする死者の実に30倍以上の兵士が感染症によって亡くなっていたことを明らかにします。
 さらに、彼女はそのデータを「見える化」するために、「こうもりの翼」という独自のグラフを考案しました。棒グラフも円グラフも普及していなかった時代です。その後も、衛生管理の観点から病棟建築設計したり、看護師学校を設立したりして、世界の医療・福祉制度を変えていきますが、つまり、そういった変革を進めたのは、白衣の天使ではなく、統計学者としてのナイチンゲールだったのです。
 ナイチンゲールの看護実践は、一人一人の患者さんが気の毒、とか可哀想という感情レベルではなく、事実を客観的に把握するためのデータを収集し、それを分析して、見える化し、合理的な根拠を持って説明するというサイエンスを使って課題発見をする、つまり科学する力をベースにした看護です。
 大学で学ぶということは、それぞれの領域において、教科書的な知識を覚えることだけでなく、そういった科学的思考力や合理的な説明力を身につけること、科学的な思考力を身につけることです。それは、文科系でも理科系も関係ない、現代人の教養としての「考える力」を身につけることといっても良いでしょう。
 私は、このコロナ禍において、インターネットを通じて溢れる様々な「誹謗中傷の情報」や「デマ情報」に接し、さらにその不確定で根拠のない情報を拡散させたり、踊らされているのは、むしろ若者世代に多いというニュースに接して、愕然としました。正確な科学的知識や客観的な科学的思考は、冷静な理性として作用すると信ずるからです。
 本学でも、大学全体としてデータサイエンス教育の充実に向けて改革を進めているところです。是非皆さんも、知識量を増やすだけでなく、根拠に基づいた科学的思考法をしっかり身につけるよう、勉学に励んでいただきたいと思います。
 山口県立大学は、今年創立80周年を迎える歴史ある、山口県唯一の「県立大学」です。
 21世紀に向けた大学改革の折に、校是として「人間性の尊重」「生活者の視点」「地域社会との共生」「国際化への対応」の4つを掲げました。現在、使用している四つ葉を思わせる大学のロゴは、この4つの理念を象徴しています。赤は若者の志を、黄色は明るく元気な本学の校風をイメージしていると思います。私たちには、未来を暗く貧しい高齢社会ではなく、成熟した豊かな少子高齢社会を、ヒューマニティとサイエンスを融合させた力を活用して、地域に根付いた発想で創造することにチャレンジするという使命が与えられているのです。
 本学は、大規模な大学ではありませんが、教員と学生の距離の近さと、地域に根付いた、多彩な教育研究活動が特徴です。特に、第3期の中期計画では「大地共創」(大学と地域が一緒になって創り出す)として、公的団体や地元の企業との共同研究や受託研究に積極的に取り組み、さらに正課の授業科目だけでなく正課外でも、地域連携で多様な問題解決型教育プログラムに取り組んでいます。どうか、この条件をフル活用して、自ら求め、自分の可能性を広げてください。
 終わりに、本日ご列席の皆様のご多幸と、今後のご活躍を祈念し、私の式辞といたします。