「言語政策から見た日本語教育の現状と課題」国際文化学部 日本語教育関連外部講師による講義 No. 9

2023.12.21

12月13日(水)、山口県立大学にて「国際文化学部 日本語教育関連外部講師による講義 No. 9」が行われました。

講師の嶋田和子氏(アクラス日本語教育研究所代表理事)は、40年間にわたり日本語学校、大学、地域日本語教育など、日本語教育の様々な現場に関わってこられました。

2019年の「日本語教育の推進に関する法律」制定を皮切りに大きな変化の中にある日本語教育がどのようなプロセスを経て今日に至ったのか。そして今後どのように取り組んでいくべきかということを、国際文化学部2年生の学生たちにお話しいただきました。

講師 嶋田和子先生(アクラス日本語教育研究所代表理事/元公益社団法人日本語教育学会副会長)
講師 嶋田和子氏(アクラス日本語教育研究所代表理事/元公益社団法人日本語教育学会副会長)

日本語教育の揺籃期からこれまで

日本における留学生がまだ少なかった1983年、政府は「留学生10万人計画」を打ち出しました。日本語を母語としない人を対象に、日本語を教える機関である日本語学校が増えはじめ、日本語能力試験や日本語教育能力検定試験など、日本語教育が推進されていきます。

日本語学校は激動の中で成長を目指し、「留学生10万人計画」の達成にも大きく貢献しましたが、2010年の「事業仕分け」にその道を阻まれることとなりました。

ですが2011年以降も、日本語学校の数は増えています。

「みなさんに、社会にはたらきかけることの大切さを伝えたいんです。」

講師 嶋田和子先生

長い時間をかけて仲間と一緒に国やさまざまな機関に働きかけてきた嶋田先生はそう繰り返していました。

法制化へのプロセスと現状

日本語教育に関しては、ボランティアによる教室が多く体系的な教育環境が整備できていない、専門性を有するコーディネーターや日本語教師が不足している、また地方公共団体と日本語教育関係機関の連携が不十分である等の課題がありました。

言語政策を国として行っていきたい。日本語学校の社会的位置づけを、日本語教育の質を向上させたい。そのために嶋田先生らは、努力を重ねてきました。

その結果、2019年に「日本語教育の推進に関する法律」が制定され、まさに「日本語教育元年」を迎えました。

嶋田和子先生と国際文化学部2年の学生たち

嶋田先生の、そして日本語教育の歩んできた道筋に、学生たちは真剣に耳を傾けていました。

日本語能力のレベルについて考えてみる

2021年、「日本語教育の参照枠」が発表されました。

これは日本語学習者を社会的存在として捉えること、言語を使って「できること」に注目すること、多様な日本語使用を尊重することを柱として考えられた、日本語教育の包括的な枠組みを示すものです。

今回は、参照枠の示す熟達度を理解するために、次のような表をもとに日本語能力のレベルを周りの人と一緒に考えてみました。

「活動Can do」の横にレベルと順番を記入する欄が設けられた表
※講義にて配布されたワークシートをもとに筆者作成
嶋田和子先生と国際文化学部2年の学生たち
話し合う国際文化学部2年の学生たち

それぞれのライフスタイルにおいてどこまでのレベルが必要とされるのか、その習得を促すために何ができるか。学生たちはそれぞれ考えを深めました。

「ともに社会を担う仲間」として

講義の最後に、日本語教育の取組みについて様々な事例を紹介していただきました。

その中で嶋田先生が重要だとおっしゃっていたのは、「支援」ではなく「市民としての社会参画促進」としての日本語教育の在り方です。

「ともに社会を担う仲間」として、学び合う。

学ぶ力は本人の中にある。学習者主体の日本語教育を。

それが社会にとっても貴重な「人財づくり」になるのだそうです。

ラップ動画「やさしい せかい」を観る学生たち

嶋田先生も制作に関わったラップ動画「やさしい せかい」を観ながら、学生たちは今日の学びをさらに深く心に刻んでいました。

「思う」だけでなく、仲間とともに活動して欲しい。

今日までの日本語教育の歩みと嶋田先生の活動をお話しいただき、国際文化学部の学生たちにとってとても貴重な学びとなったことと思います。

嶋田先生らの社会への働きかけで新しい法ができ、社会が変わりはじめ、今があります。

長い時間をかけ、対話を重ねてきたからこそ実現したことがたくさんあります。

日本語教育の未来のために、仲間とともに活動して欲しい。

嶋田先生のメッセージを受け取った学生たちが今後どのような未来を実現していくのか、とても楽しみになる90分間でした。

国際文化学部2年生の学生たちにメッセージを伝える嶋田先生