曲阜師範大学 国際文化学科3年 野村唯衣 <1号 2019年3~4月>

はじめに

 肌寒かった三月から曲阜師範大学での留学生活が始まり、早くも二か月が経ち、今は春に咲いた花も散り暖かい季節になりました。新しい環境にも慣れてきて心に余裕がある今、曲阜に来てからの二か月間たくさんのことを思い出しながらこのレポートを書きました。大変だったことや楽しかったことなど、ここで過ごした二か月は、今までで感じたことのない速さで過ぎていき、充実した日々を過ごしています。

留学のきっかけとこの報告書の目的
 曲阜師範大学に留学しようと思ったきっかけは、一昨年海外語学・文化研修で、約一か月間ここ曲阜師範大学で過ごしたことです。隣の国なのにこんなにも日本の文化と違うのかとカルチャーショックを受け、同時にその中国の文化に興味を持ちました。またテレビや新聞でしか知らない日本人が持っている中国へのイメージとは全く異なることを知り、現地で学ぶことにより、中国の文化や現状を伝えることができるような人になりたいと思い、留学を決めました。
 自分が留学を通して経験したことや感じたことを述べ、テレビやニュースだけで見る国のイメージだけではなく、少しでも中国に興味を持ってもらったり、中国を身近に感じてもらったり、留学を考えている人の励みになるような報告書にしたいと思っています。

曲阜市について
 曲阜市は山東省の済寧市に位置しており、省都・済南から約130㎞の位置にあります。済南空港、曲阜東駅など空港や高速鉄道があるため交通面では比較的便利です。周・春秋時代の魯国の故地であり、また孔子の生地として知られています。三孔など孔子にまつわる世界遺産が有名ですが、ここ曲阜師範大学でも大きな孔子の像が私たちを迎えてくれました。田舎ですが生活を送るうえで困ることはなく、町の人も暖かく外国人に優しく話しかけてくれるなど、私たち留学生にとってとても過ごしやすい街だと感じています。


曲阜師範大学の孔子の像

留学前の準備

 初めての留学で何を準備したらいいか分からない、中国でのお金や携帯電話事情が分からない、そういった方が多くいると思います。実際私も何をしたらいいのか分からず出国する一か月前は忙しい日々を送っていました。そこで留学前に日本で準備しておくと良いものを4つ厳選して紹介します。

デビットカード
 曲阜師範大学につくとまずたくさんの支払いがあります。お金の詳しい内訳は次号で紹介します(半年分の寮代やWi-Fi代を6月に支払うため)。そのため私は福岡空港であらかじめ多めに換金しておきました。しかしそれだけで十分か不安だったため作成したのがVISAのデビットカードです。一年分のお金を現金で換金して持っていくのは便利ですが、高額を携帯するのが不安だったため日本でデビットカードを発行しました。
 このカードは日本の銀行から入金することも可能で、家族に頼んで入金してもらうこともできます。大学の近くに中国建設銀行があり、そこで中国元としておろすことができるため手持ちのお金が不足した時や非常時にとても便利なカードです。
 また日本で日本円を中国元に換金する時に、私は非常に苦労しました。大金を換金するため銀行にあらかじめ電話して確認しなければいけません。私は田舎に住んでいるため近くに換金できる場所がなく、最終的に日本を出国するときに空港で換金することにしました。また大学の近くに換金できる場所はなく、少し離れた大きい中国銀行でも外国人はカードを作らないと換金できないらしく手続きが非常に煩雑です。そのためあらかじめ日本や空港で換金してくることをお勧めします。

外国人体格検査
 この検査は日本の国立・公立病院や日中友好病院または中国で受けなければならないものです。検査を受けその書類を留学先の学校に提出します。中国でも受けることはできますが多くの留学生は渡航前にしているので、不安な場合は事前に日本で行うことをお勧めします。私はビザが取れるまでこの検査はできないと思っていたため中国で受けようと考えていましたが、ビザがなくても受けることができました。山口県立大学から最も近い場所としては、防府市にある山口県立総合医療センターで事前に電話で予約して受診することができます。結果が出るまで約一週間以上かかるため、余裕をもって受診したほうが良いでしょう。

ビザの発行
 ビザ申請に必要な書類「入学許可書」と「JW202」というものが曲阜師範大学から届きます。今回留学する私たち二人は、この書類が届いたのが一月の後半でした。どこで申請したらいいのかも分からなかったため私たちはとても焦りました。近いところで福岡に直接行くこともできますが、また福岡に受け取りにいかなければいけないためとても手間がかかります。そのため私たちが利用したのがCITS JAPANという代行会社です。その会社のホームページから必要な書類をダウンロードし、中国ビザの規定の証明写真、パスポート、曲阜師範大学から送られてきた書類を会社に送ると約二週間で届きます。費用は約10,000円で後から請求書が届き入金するという仕組みです。書類など分からないところは会社に電話で問い合わせてみるととても親切に対応してくれます。曲阜師範大学からの書類が届くのをただ待っているのではなく、届いたらすぐ送ることができるようにあらかじめ証明写真や書類の準備をしておくことをお勧めします。

SIMフリーの携帯
 一番気になるのが携帯電話(以下、「携帯」と略称)の使用ではないでしょうか。ここではiPhoneを利用していることを前提に述べます。その理由はAndroidの携帯などは中国の電波が対応しておらず利用することはできません。そのため中国で携帯を購入してSIMカードを購入しなければいけません。事前に自分の使っている携帯が中国で対応できるかを確認する必要があります。私はiPhoneを日本で使用していて中国でも対応していたためそのまま中国で利用することにしました。しかし日本での設定のまま中国で使用してしまうと高額な料金を払わなければいけません。そのため私は日本を出発する前日に携帯ショップで携帯をSIMフリーの状態にしてもらい、日本での使用を休止扱いにしました。重要なのはSIMフリー状態の携帯を持っていくことです。その状態にすることによって中国でも活用することができます。  また中国は規制が厳しいためLINE、Instagram、Facebook、Googleが利用できません。そのため中国では主にLINEに変わる「WeChat」やGoogleに変わる「百度」というアプリを利用しています。あらかじめダウンロードしておくといいでしょう。またVPNというアプリをダウンロードすれば、LINEなども利用することができます。無料のアプリもありますが、有料のアプリを使用すれば日本と同じようにスムーズにLINEなどを利用することができます。私は無料のVPNのアプリを活用していますが、生活に困らない程度にどのアプリも利用できるため無料でも不便はないと思います。

到着後にしたこと

 到着から授業が始まるまで少し期間があったため、生活用品をそろえたり銀行を開設したり携帯を利用できるようにしたり、中国では一般的な電子マネーを利用できるようにしたりしました。私たちは曲阜に着いたとき中国語も話せず中国人の友人もいなかったため、コミュニケーションをとることができず苦労しました。

SIMカードの購入
 私たちが最初に行ったことがSIMカードの購入です。その理由は銀行口座を作るのに携帯番号が必要なためです。学内にはたくさんの携帯会社があります。私たちが購入した携帯会社は中国移動(China Mobile)です。私たちが住んでいる寮から最も近い場所にあるのと、学内や大学付近に一番多くあるのがこの会社だったため選びました。SIMカードが欲しいと伝えるとプランなどを説明してくれて、月に18元払うSIMカードを購入しました。その場では最初に50元払いました。驚いたのは中国の電話番号は自分で選ぶことができるということです。一枚にたくさんの電話番号が書いてありその中から好きな電話番号を選ぶことができます。月々の支払方法は電子マネーで行います。後程説明しますが電子マネーのアプリに携帯代支払い専門のものがあります。事前に入金しておき、決まった日に18元が引き落とされるという仕組みです。

銀行の開設
 私はデビットカードを持ってきていたため中国での銀行の開設は必要ないと思っていましたが、電子マネーを利用するのに必要だったため開設することにしました。学内や大学付近にはたくさんの銀行がありますが、唯一開設できたのが中国建設銀行でした。他の銀行に行っても外国人はできないと拒否されてしまいました。多くの留学生がこの銀行で開設しているため手続きもスムーズでした。手続きで必要なのはパスポートと中国の携帯番号と日本の住所です。日本の暗証番号は4桁のことが多いですが、中国の暗証番号は6桁のため、あらかじめ考えてメモしておくのが良いでしょう。日本の様に通帳はなくカードだけ渡されて手続きが終了しました。現金で持ってきていたお金をカードに入金することができます。

電子マネーの活用
 次に私たちが行ったのが電子マネーの登録です。中国では現金で支払うことが少ないです。現金で支払えないことはないですが、お釣りを持っていないと言われたり嫌な顔をされたりすることがあります。そのため電子マネーの活用をお勧めします。微信(WeChat)支付宝というアプリで開設した銀行と連携させると利用することができます。店舗には各電子マネーアプリごとにバーコードが貼ってあり、それを読み取るか自分のバーコードを店の人に読み込んでもらうことにより支払いができます。他にも先ほど説明したように携帯の支払いができたり、友人に送金したり、タクシーを呼ぶこともできる非常に便利なアプリです。外に出るときは携帯だけ持っていれば困ることはないため、日常で財布を持つことはありません。

留学生活について

宿舎について
 私は現在留学生専用の宿舎に住んでいます。二人部屋で私は山口県立大学から一緒に来た日本人の学生と住んでいます。ルームメイト間トラブルのリスクを減らすため、多くの学生が同じ国の人同士で同じ部屋に住んでいます。留学生宿舎は、留学生と関係者が共通して持っている鍵でしかドアを開けることができません。また警備員が常駐しているため安心して過ごすことができます。部屋には勉強机、ベッド、タンス、クローゼット、トイレ、シャワー、テレビ、エアコンが備え付けてあります。広々としており綺麗で快適に過ごせますが、個人的にはユニットバスのためシャワーを使用する度にトイレが濡れるのが残念です。キッチンと冷蔵庫は階ごとに共同で使用しています。休みの日になると自炊する学生もいますが平日には学食や大学の近くの飲食店で食べる人が多いです。学食では一食5元(90円)~8元(144円)で食べることができるため、私はほとんど自炊することはありません。洗濯機は一階に三台あり留学生共同で使っています。一回2~3元で回すことができます。この洗濯機は硬貨で利用します。先に説明したように私たちは現金を使用することがないため硬貨を持っていません。そのため一階の办公室で両替することができます。私たちは部屋干しをすることが多いですが、屋上に共同で干す場所もあるため非常に便利です。その他にも卓球台やジムも備え付けてあり、教室も自由に使えるため自習することもできとても過ごしやすい宿舎だと思います。また他国からの留学生と同じ宿舎で過ごしているため中国語や英語はもちろん、ロシア語や韓国語など常に身近に聞こえてきます。留学生同士コミュニケーションも多くとるため、今までにないような貴重な体験をしています。しかしその反面、文化の違いを感じることも多く、夜中に廊下で大きな音で音楽を流したり、大声で喧嘩したり、冷蔵庫の使い方など苦労していることも多くありますが、それもすべて貴重な体験だと感じています。


私たちの留学生寮

寮内にあるジム

共同洗濯機

共同キッチン、冷蔵庫

国際女性デーの日に留学生でパーティー

授業について
 授業が始まる前にクラス分けのためテストと面接を受けました。難しくないため身構える必要はありません。A、B、C、D班に分かれており私は一番上級クラスのA班で授業を受けています。A班には合わせて7人の学生がおり少人数の授業です。どちらかというと中国語の初級ピンインから始めるC班の学生の方が多いです。授業は汉语综合,汉语阅读,汉语口语,汉语听力,汉语写作,HSKの6教科です。日本人は漢字を書くこともでき大体の意味を理解できるためリーディングやライティングはできますが、リスニングやスピーキングが苦手なようです。わたしもその傾向があり口语と听力に苦戦しています。レベルとしては日本での中国語の授業とは異なり、もちろんすべて中国語で行われ、多くの新しい単語が出てきたり長文を読んだり日常的に使える言葉を学んだりと非常に濃い内容です。最初は聞いていても理解できず、ついていくのに必死でしたが、今では授業の内容も説明も理解できるようになりました。しかし宿題が多く、予習・復習に追われる毎日です。


実際に授業で使用している教科書

留学生活の一日
 いつも同じではありませんが平日の私のある一日を紹介します。

7:15起床
8:00~12:00授業
12:15昼食
13:00買い物日用品や食料品などを買いに行く。
14:00宿題、予習・復習中国人の友人と日本語・中国語を教え合いながら勉強することもある。
16:00自由時間卓球やバドミントン、散歩をしたり、時には昼寝をしたりしている。
18:00夕食
20:30自由時間勉強や中国の映画・動画を観たり、個人で自由な時間を過ごしている。
23:00就寝

 このように私たち留学生には多くの自由時間があります。今は大半を勉強に費やしていますが、他国からの留学生と話したり、中国人の友人と勉強したり出かけたり、卓球やバドミントンなどのスポーツをしたり楽しんでいます。ご飯を食べるにも買い物をするにも、どこに出掛けても中国語が必要なため、日頃の生活すべてが勉強でとても充実しています。

参加した行事(五四诗会)
 曲阜師範大学では4月25、26日に運動会があり、27日に五四诗会が開かれました。これは日本でいう文化の部みたいなもので、学科ごとに一か月ほど前から練習してステージで発表する会です。私は縁あって外国語学院の学生の発表に参加しました。外国語学院の学生は留学生を題材に発表しており、私は孔子の「論語」の一文を読みそれを日本語に翻訳して読むという役をしました。漢服を着て多くの中国人の学生と交流することができ、非常に素晴らしい経験でした。またそのステージを見て「こんにちは」と多くの学生が日本語で話しかけてくれ、非常に嬉しかったです。


外国語学院の学生たちと

発表している時の一枚

曲阜市の観光

万仞宫墙 


三孔の入り口で開かれているショー

廖河公园


曲阜市にある大きな公園

九龙山


中国人の友人と留学生と山登り

おわりに

 この二か月はあっという間に過ぎていきましたが、報告書に書ききれないほど多くのことを体験しました。言葉も通じず新しい環境で体調を崩し一週間寝込んでいた時期もありました。しかし一方で、新しい人に出会い新しい文化を体験し、充実している時間の方が多いと感じています。書きたいことを全部書いていると非常に長くなってしまい詳しく書けていないところもありますが、少しでもこの報告書で私の留学生活が伝わっていればと思います。