センター大学(2018年度日本語TA)国際文化学科4年 山下璃帆 <3号 2019年1~2月>

はじめに

 時が経つのは早いもので帰国まで残り2ヶ月半になり、帰国後のことについて真剣に考えなければいけないことも多くなってきました。「帰国」や「最後」という言葉を書き綴る日がこんなに早く来るのかと思うほど、充実した留学生活を過ごしています。今回は主にセンターターム(集中講義)と春学期について報告します。

センターターム

 センタータームとは集中講義のようなもので、約3週間毎日1つの講義のみを受講します。私は日本語の教授のもとで日本語TAをしているので先生の開講授業があればそれを受けなければいけませんが、受けたい授業があれば相談可だそうです。教授と話した合った結果、私は"Culture Evolution Japanese Film"を履修しました。映画を観てからディスカッションや日本の文化や社会問題を学ぶというのが主な授業内容です。昔の映画や今まで観たことのない映画もあり、ここでも自国の文化理解の大切さを改めて痛感しました。日本について聞かれたときにはっきりとした答えが出せず個人的な見解を含めた回答をすることが多く、日本人としてのアイデンティティを失っているような気がしてきました。日々の授業課題は映画を一本見て、作品分析レポート(1~2ページ程度)を提出しなければなりません。同じクラスの友人と映画を観て話しながら課題をするので宿題は全く苦痛ではありませんでした。やはりバックグラウンドが違うので映画について全く違うコメントや笑いどころ、疑問点など違う観点から映画を観ることができたと思います。ただ映画を観るのではなく、文化や監督の撮影方法や技術などに注目すると映画もより一層楽しむことができます。
 最終課題はプレゼンテーションと10ページ程度の論文提出でした。プレゼンテーションは一つの映画を選んで分析し、クラスで発表します。私は世界でも有名なジブリ映画の代表作とも言える国内興行収入約300億円を突破した「千と千尋の神隠し」を選びました。この映画について発表するにあたって、英語バージョンと日本語バージョンを観ましたが言い回しの違いなど、翻訳の仕方が大変興味深かったです。英語話者にはわからない日本語特有の表現など、文化・宗教的な知識が含まれているものはわかりやすい英語または説明が補足されていました。主人公の千尋がナレーターのようなポジションも担っていたのが英語バージョンの特徴だと思います。
 ジブリ映画はディズニー映画と比べてとても現実的だと思いました。最終論文はジブリとディズニーを比較し、女性像について書きました。千尋は普通の10歳の少女が着るような服を着ており、ディズニー映画に出てくるお姫様のようにウエストが極端に細く、目が顔の大半を占めているわけではありません。また動物たちと会話できたり、美しすぎる美貌に魅了された王子様に助けてもらえたりするわけでもありません。ごく普通の少女が別の世界に迷い込んで問題を解決していく上で大人になっていくというのがジブリの魅力なのだと思います。
 また宮崎駿監督ならではの詳細までこだわっているところなど、純粋にただ観るだけとは違う発見があります。権力のある湯婆婆は西洋スタイルの服を着て、油屋の和のイメージとはかけ離れた洋風のインテリアがある部屋に住んでいます。油屋で働いている人は階級があり、和服を着ています。これはこの時代に西洋の文化が日本に与えている強い影響力を表していると言えます。
 私が一番共感したのはカオナシの行動です。カオナシは千尋に執着していますが、留学したことのあるみなさんは彼の行動が理解できるのはないでしょうか。やはり、外から別のところに来た"仲間"であることに共通している点があります。単身留学に行った際に日本人を見つけると嬉しくなり安心感を覚えます。また別の環境に行くと様々なものを吸収しつつ自分自身のアイデンティティを模索し始め結局何をしに来たのかと目標を失う怖さもあります。何かのきっかけで自分自身を見つめ直し、新たな目標に向かって進んでいくという点でカオナシというキャラクターに注目すると留学生としての私を見ているような気がしました。

 「映画を別の観点で観てみると面白い」ということで、映画についての感想のようになってしまいましたが、これが授業で習った一部のことです。
 当初の目標や日本人である私自身のアイデンティティを失わずに様々なものを吸収し、残りの留学生活でしっかり成長したいと思います。


 センターターム中に、海外での授業を受けている学生が多いです。友人の2人は、日本での2週間の留学を終えて帰ってきました。日本語に興味を持ってくれる人も多く、来年のセンターターム中の日本行きには75人の応募がありました。

春学期

 春学期の履修登録の流れとして秋学期の後半に、学年ごとに履修登録の日程が割り当てられ、学年が上の人から順に履修登録をすることができます。留学生の扱いについては毎年違うようで、私は3年生と一緒に登録することができました。人気の科目はすぐに人数が埋まってしまい、自分が取りたい科目が取れないかもしれないので緊張感があり、多くの学生が開始時間と同時に登録します。第3希望ぐらいまで考えていた方がいいと思います。もしも本当に取りたい授業があれば教授のところに行ってみるのも一つの手です。「留学生で最後の学期なのでどうしても取りたい。」という熱い思いを伝えると高確率で特別に入れてくれることもあるので物は試しです。諦めないでまずは訪ねてみてください。
 日本語TAとしてですが今学期は前学期と違って個人的なチューターを受け付けるようになったのでオフィスアワーはなくなりました。去年も日本語2つを含めて5つ履修していたので最終学期は2つ履修して、一つは聴講しています。履修した科目は以下の通りです

・Japanese日本語(初級・中級・上級)
・Chinese intermediate中国語(中級)
・Western religious traditions西洋宗教

Chinese
 中国語ではさらに多くの単語を学び、ある程度の本であれば読めるようになってきました。しかし、どの言語学習にも言えることですが、読めて書けても話せないという壁にぶつかっています。時間を見つけて中国人学生に発音指導をしてもらおうと思っています。

Western Religious traditions
 主にユダヤ教、キリスト教とイスラム教についてです。聖書などを読むことがありますが、もともとストーリーを知っているので比較的理解しやすいです。聖書などをあまり知らないと一から読まなければならない上に聖書の英語は理解に苦しむものがあります。宗教を知るというのは様々な人種が集まるアメリカの大学では大切なことだと思います。


 聴講しているコンピューター科学の教科書です。アメリカの教科書はとても高いので、中古で買ったりレンタルしたりするのがオススメです。この教科書は1万5千円ほどです。

Japanese
 今学期は、上級日本語が初めて開講されました。日本語を続けて学びたい学生も多かったので、オフィスに掛け合ったり、教授にお願いしたりと4ヶ月ぐらいかけてようやく実現することができました。実現に当たってのプロセスは、5人以上の学生が確実に受けることを証明しなければならず、色々な書類の手続きがありました。まだ決まっていない科目なので学生の履修も書面での手続きで、教授や職員のサインが必要だったりと簡単ではありませんでした。週3回の授業が普通ですが、初めてできたクラスということもあり、お試しで1単位で週に1回の授業となります。8人受講していて主にリーディングや日本の社会問題について話し合っています。これまで「高齢社会」「少子化」「ひきこもり問題」などについて話し合いをしました。週1回の授業ですが予習も課題も多く、中級と違い、基礎的な文法や新たな単語を学ぶわけではないので自己学習が必須となりますが、実際に日本語を使えることに喜びを感じている学生が多いです。
 教材を選んだり題材を考えたりしていますが、学生のレベルがバラバラなのでとても難しいです。日本語TAとして引き続き活動できれば、上級や日本語で開講される文化の授業などもできるのにと言われたので、やはり何かを変えたいのであれば1年という期間は短すぎると痛感しました。日本語を学びたくても授業がないので学べない、専攻・副専攻にもできないというのは学生にとっても学意意欲の向上につながらず、日本語よりも専攻に必要な授業を履修しているのが現状です。今回は、通常の日本語授業より上級コースを開講するために努力したことの方が多かったように感じるので、これからはしっかり日本語授業に貢献していきたいと思います。今学期は、引き続き授業を受ける人と山口県立大学から帰ってきた人が多いので意欲のある学生が多く、授業の進行も早くなってきました。少人数のクラスなので宿題での間違いを丁寧に説明することができ、また個人的に会うなどより深いサポートができるようになりました。次回、アメリカにおける日本語の授業の現実と課題について少し触れたいと思います。

よくチューターを頼まれる2人です。日本語の授業ではもちろんなこと、週1でアニメを教科書に日本語学習をしています。こちらではアニメ好きな学生が多いので、アニメを話のきっかけに友人をつくることもできます!

ジムに行くことも増えました。センター大学のジムは結構充実しているので時間があるときに行くのがオススメです。

おわりに

 座右の銘の「妥協は卑怯」を胸に、やりたいことは積極的にやってきていますが、時には疲れをとる時間を作ることも大事だと思います。日本語のテスト前は5人以上の学生のチューターをしなければならなかったりと楽しい反面疲れを感じました。またアレルギーがあるので食堂で食べることもほぼなくなり自炊に時間を取られることが増えてきました。上手な時間の使い方が留学を成功させる一番の鍵です。留学のみならず、何においても当てはまるとは思いますが、何を優先させるかをしっかり考えていくことが大切だと思います。3月から企業説明会が解禁され、留学先で生活をしながらの就職活動になるのでとても大変な時だと思いますが、優先順位をしっかりつけてタイムマネジメントを行いたいと思います。
 長かった留学生活も残りあと2ヶ月半、今しかできない経験をできることに感謝し、1分1秒無駄のないように大事に過ごしていきたいと思います。