※以下の研究室紹介は、2007年7月22日(日)に開催された山口県立大学オープンキャンパス資料に掲載されたものです。

■研究室名 日本芸能論研究室(3号館1階) ■教員名 稲田秀雄


■日本芸能論研究室について
 日本芸能論研究室では、日本古典芸能(能・狂言)・日本中世文学(『平家物語』など)を専門領域にしています。
 皆さんは、能や狂言という芸能(演劇)を知っていますか。能・狂言は日本を代表する古典芸能です。もともと猿楽〈さるがく〉と呼ばれていた芸能が、14世紀中頃になって、能と狂言に分化しました。つまり、能と狂言は猿楽を母胎として生まれた、兄弟のような芸能といえます。
 2001年に、能・狂言は、国連の教育文化機関であるユネスコから「人類の口承および無形遺産の傑作」としての宣言を受けました。いわゆる「世界無形遺産」に認定されたわけで、その国際的な評価は今や揺るぎないものになったといえましょう。
 ところで、「遺産」といえば、保護しないと今にも滅びそうなものという印象を与えるかもしれません。しかし、能・狂言は600年の歴史を有しつつ、現代でもりっぱに生き延びています。
 皆さんの中でも知っている人の多い野村萬斎(まんさい)は、狂言の役者ですが、本職の狂言だけでなく、映画やテレビ、現代演劇などにも進出して、その活動は高く評価されています。
 このように、現代までしたたかに生き延びてきた能・狂言の魅力とは何でしょうか。
私はこの新しい文化創造学科では、以下のような科目において、この不思議な魅力をもった芸能である能・狂言を中心に、日本の芸能の歴史や特質を皆さんといっしょに探究してみたいと考えています。

■授業内容の紹介
○芸能文化論
「芸能」とは何だろうか、ということから始めて、日本に伝わる代表的な芸能を紹介し、文化との関わりについて考えます。つまり、日本の芸能の歴史的展開をたどり、その文化的役割を明らかにすることをねらいとする授業です。具体的に言えば、先に述べた能・狂言はもちろんのこと、古代の芸能(舞楽など)や仏教芸能、民俗芸能などもビデオを用いて紹介しつつ、講義を進めます。
○日本古典芸能論
 日本古典芸能のなかでも、特に、文学との関わりが大きい能をとりあげて講義する予定です。能の作品には、作者がわかっているものがかなりあります。能の作者といえば、例えば、観阿弥・世阿弥が有名ですが、一体どんな作品を書いたのでしょうか。代表的な作者ごとに、代表的作品(演目)を紹介し、その構想や背景について講義します。また、世阿弥以降のあまり一般には知られていない作者の作品もとりあげていく予定です。
○日本文学Ⅱ(中世)
 能・狂言が生まれた中世(鎌倉・南北朝・室町時代あたり)という時代には、それまでにはなかった文学ジャンルが生まれました。例えば、『平家物語』に代表される軍記物語は、動乱の記述を通して、時代の変革期を描く中世固有の物語文学です。そのような領域にも私は関心をもっていますので、この授業では、そうした中世の“文学作品”をテキストとして選び、その構想や表現に留意しながら、綿密な読みを進めます。
○日本文学史Ⅰ
 この科目では、奈良・平安時代から鎌倉・室町・安土桃山時代までの日本文学の歩みを、代表的な作品を紹介しながら講義します。皆さんのよく知っている『万葉集』『源氏物語』『平家物語』だけではなく、高等学校の国語の授業では、あまり触れる機会のなかった作品も、とりあげる予定です。
 芸能―特に演劇は、言葉だけでなく、衣装や舞台装置などビジュアルな要素も大事なジャンルですので、美術やデザインの面からもアプローチすることが可能です。特に、能・狂言は、面・装束(衣装のこと)・扇・楽器など、それぞれ美術・工芸品としてもすぐれたものが舞台で使用されます。能や狂言は、言葉が少々分からなくても、見て楽しめる側面をもっているのです。

■能・狂言の世界と、現代
 最近では、マンガの世界にも能を扱った作品があったりします(成田美名子『花よりも花の如く1~4』白泉社、2003~2006)。また、イラストや写真を用いてわかりやすく狂言を紹介している本も出ています(橋本朝生監修・恵谷眞生『狂言絵本』白竜社、2003、茂山千三郎『世にもおもしろい狂言』集英社新書、2006など)。そんなところから、能・狂言の世界をのぞいてみてもいいかもしれません。
 なお、山口市には鷺〈さぎ〉流狂言(山口県指定無形文化財)が伝わっています。もともと狂言には、大蔵・和泉・鷺という三つの流儀がありました。このうち、大蔵流と和泉流は現代に存続し、それらの流儀に所属するプロの役者がいます(ちなみに先に挙げた野村萬斎は和泉流の役者です)。ところが鷺流だけは、明治維新以降、急速に衰え、ついに家元を立てることができなくなり、滅亡に至りました。狂言の歴史の中でも、これは大きな出来事です。
 しかし、鷺流の芸がこの世から全く消滅したわけではありません。実は、新潟県佐渡市とここ山口市に、によって奇跡的に伝えられていたのです。しかも、この2カ所に伝わった狂言は、同じ鷺流といっても台本や演出がかなり異なります。佐渡市には鷺流の宗家の鷺仁右衛門〈にえもん〉派の系統、山口市には分家に当たる鷺伝右衛門〈でんえもん〉派の系統が伝わっているのです。
 毎年、定期的に公演活動も行われていますので、大学に入学して山口市の近くで生活するようになったら、是非一度実演を見て下さい。狂言の面白さを体感できると思います。

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