※以下の研究室紹介は、2007年7月22日(日)に開催された山口県立大学オープンキャンパス資料に掲載されたものです。

■研究室名 日本近代文学研究室(3号館1階)■教員名 加藤禎行


■日本近代文学研究室について
 日本近代文学の学問領域は、明治以降の日本文学を研究対象とする学問であると、ひとまず言うことができます。ですから、みなさんが高等学校の現代文で学んだ、森鷗外「舞姫」、夏目漱石「こゝろ」、芥川龍之介「羅生門」、梶井基次郎「檸檬」、中島敦「山月記」などの小説について勉強する学問なのだと、説明することもできます。しかしながら、語句の意味や作者の考えたことに留まらない幅広い視野での小説の読み方を考えていきますし、採り上げる小説も必ずしも皆さんが耳にしたことのある小説ばかりとは限りません。
 わたくしも日本近代文学について考え続けている一学徒です。そして、その取り組んでいる研究テーマは、「夏目漱石を研究対象とした作家研究」「日清戦争後から日露戦争後にいたる文壇動向の研究」「明治・大正期文学の研究」「明治・大正期の新聞・雑誌メディアの研究」の四点です。
 そもそも、近代日本において〈文学〉は、芸術的営為でもあり、テレビ・ラジオ同様の娯楽でもあり、政治的闘争の道具でもあり、一攫千金の夢でもあり、貧乏と引き替えに自己実現を図る道でもあり、青年達の思想的背景でもありました。このように、多種多様な役割を果たした日本近代の〈文学〉は、日本近代の生活と文化の痕跡をとどめた膨大な資料体として、わたくしの前に息づいています。こうしたところにわたくしは魅力を感じています。
 高等学校で用いている国語便覧・国語教科書には、簡単な文学年表が収録されていますから、どうぞ参照してみてください。高等学校の国語科の日本文学史(あるいは日本史の文化史)では、作家・作品について簡単に紹介されただけで、まだみなさんが充分には知らない作家・小説が、たくさん並べられているはずです。そうした高等学校での学習が、日本近代文学という学問領域の最初の扉になっているのではないかと思います。


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鰭崎英朋・鏑木清方合作「泉鏡花『婦系図』前篇口絵」
(一九〇八〈明治41〉年二月、春陽堂刊行)

■授業内容について
○基礎演習Ⅰ・Ⅱ(※日本近代文学)
 この授業では、半期にわたって日本近代文学の長篇小説を、それもどちらかというとエンターテイメント性の高い、家庭小説や通俗小説を意図的にテキストとして選び、毎週の発表担当者が章を分担して発表資料を作成し、その発表をもとに受講者全員で討議を行っています。
 近代文学の長篇小説の多くは、新聞・雑誌などのメディアに、毎日あるいは毎月、連載されながら発表されました。現在でもNHKでは、朝の連続テレビ小説という言い方が残っていますけれども、当時の読者は、みなさんが連続ドラマを視聴するように長篇小説を読んでいました。毎週の授業で、少しずつ丁寧に小説の場面を検討しながら読むことで、小説世界についての理解を深めていきたいと思います。ちなみに、今年度の授業では、田口掬汀『女夫波』、菊池幽芳『乳姉妹』を読んでいます。小説世界の楽しさを伝えることも狙いとした、2年生向けの授業です。
○近代文学資料論
 この授業では、普段みなさんがあまり触れることのない近代文学資料を用いて、近代文学についての理解を深めてもらう3・4年生向けの授業です。たとえば明治期に刊行された書物について実際に見たり触ったりしながら、その問題点について考えたり、マイクロフィルム化された明治大正の雑誌を読みながら、当時の読者がどのような広告と一緒に小説を読んでいたのか、その時期の雑誌にはどのような話題が掲載されていて、それは小説のあり方とどのような関係を持っているのか、といったことを考えます。

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橋口五葉画「夏目漱石『漾虚集』「趣味の遺伝」中扉絵」
(一九〇六〈明治39〉年五月、大倉書店・服部書店刊行)


○専門演習Ⅰ・Ⅱ
 専門演習は3年生向けの授業で、学生による口頭発表が中心となる大学ならではの授業です。日本近代文学研究室では、特定の作家の小説をかたっぱしから読んでいくという演習を行ったこともありますし、特定の時期に限定して小説を読んでいくという演習を行ったこともあります。
 本年度はちょうど二〇〇七年なので、今から百年前、一九〇七〈明治40〉年の小説を読むというテーマを掲げて、みんなで小説を読んでいます。たとえば、夏目漱石「野分」、泉鏡花「婦系図」、木下尚江「霊か肉か」、小栗風葉「天才」、田山花袋「蒲団」、二葉亭四迷「平凡」などの小説です。これらはみんな同じ年に発表された小説です。この専門演習での勉強をもとにして、4年生になると、受講者各自の問題意識によってテーマが選択され、みんなでそれぞれの卒業論文に取り組んでいくことになります。